2006年5月

2006-5-28 / 「理解と寛容 - 哲学者 中村元」

2ヶ月近く前のことですが、NHK教育の「NHK映像ファイル・あの人に会いたい」という番組で、哲学者 中村元(なかむらはじめ)さんのインタビューが放送されました。

この番組は10分ほどの番組ですが、毎回各方面で活躍された多様なジャンルの方たちを取り上げ、その人物が出演したインタビューにドキュメント映像を絡ませて紹介していくものです。

さて、放送の中で中村さんが繰り返し言っていたのは、「理解と寛容」ということです。

世界が一つになる場合、異質的なものに対する理解と寛容ということ、これが絶対に必要だと思います。

一方、グローバリゼーションの時代を迎えた今の世界情勢は、アメリカのブッシュ大統領の行動に見られるように、このような精神とは全く逆の方向に進んでいるように思います。

中村先生の弟子で武蔵野女子大学教授・副学長の前田專學(まえだせんがく)さんが、『テロリズムと仏教』と題する講演でこのように言われています。

アメリカで同時多発テロが起き、 二十一世紀はまことに不幸な幕開けでした。 ブッシュ大統領が 「悪」 とみなしているものを、 ビンラディン氏は 「善」 とみなす。 ブッシュ大統領が 「善」 とみなすものを、 ビンラディンは 「悪」 とみなしている。 それぞれの立場においてそれぞれの正義を戦っているわけでありまして、 ともに正義の戦いを戦っている、 そういう戦争が今日のテロとの戦いであります。
同害報復という思想についてこれまでイスラム教、 キリスト教などをみてきましたが、 では、 仏教ではどうか、 ということです。 テロのニュースを聞きましてまず頭に浮かんだのは、 仏教の開祖であるゴータマ・ブッダの基本的な考え方をよく示しております 『ダンマパダ』 という経典の名文でございます。
(中略)
「かれは、 われを罵った。 かれは、 われを害した。 かれは、 われにうち勝った。 かれは、 われから強奪したという思いをいだく人には、 怨 (うら) みはついに息 (や) むことはない。 」
「かれは、 われを罵った。 かれは、 われを害した。 かれは、 われにうち勝った。 かれは、 われから強奪したという思いを抱かない人には、 怨みはついに息む。 」
「実にこの世において、 怨みに報いるに怨みを以てしたならば、 ついに怨みの息むことがない。 怨みを捨ててこそ息む。 これは永遠の真理である。」
「実にこの世において、 怨みに報いるに怨みを以てしたならば、 ついに怨みの息むことがない。 怨みを捨ててこそ息む。 これは永遠の真理である。」
「われらは、 ここにあって死ぬはずのものであると覚悟しよう。 ――このことわりを他の人々は知っていない。 しかし、 このことわりを知る人々があれば、 争いはしずまる。」
(中略)
これは、 およそ過酷な報復というものは真の平和をもたらすものではないという教訓であるとともに、 この 「怨みを以てせず」 の戒めを忍耐強く保ち続ける以外に真の平和の実現はあり得ないということを示していると思います。

やはり、相手との対話を続ける努力を続けることだけが、憎しみの連鎖を断ち切る唯一の道であろうと思います。エドワード・サイードの「他者を知ろうとしないことも、もちろん有害無益だ。音楽を演奏する喜びを分かち合うときのような、協調と共存を通してならば、少しは期待がもてるかもしれない。」という発言と共鳴するものがありますね。

関連情報

東方学院 / 中村元氏創立の学院
東京国際仏教塾 / 前田專學氏の講義録があります

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2006-5-21 / 「イニシュフリーの島」

終日雨にたたられたある日の帰り、車を運転しながらMDを聴いていたら、いい曲が流れてきました。妻がプレーヤーの中に入れていた"celtic woman(ケルティック ウーマン)"というアルバムの中の3曲目、"isle of innisfree(イニシュフリーの島)"という曲でした。

「ケルティック ウーマン」というのはアイルランド出身の5人組のユニットで、トリノ五輪フィギュアスケートで金メダルを取った荒川静香さんがエキシビションで使用した"You Raise Me Up"で日本でも有名になりました。東芝EMIのオフィシャルサイトで次のように紹介されています。

世界中で愛されるアイルランド発祥の伝統的歌曲をこの上なく美しく甦らせるユニット。透き通る歌声と、感情豊かなヴァイオリン演奏を聴かせるのは、アイルランド出身の5人の女性。4人の女性ヴォーカリストはクロエ、リサ、メイヴ、オーラ。そして、ヴァイオリニストはマレード。それぞれソリストとしても活躍し、個性的なスタイルを持つ彼女たちの才能が集結し、アルバム『ケルティック・ウーマン』が誕生した。

アイルランド出身のミュージシャンといえばU2エンヤが有名ですが、今大ブレイク中なのがこの「ケルティック ウーマン」です。

そして、「イニシュフリーの島」という曲は、アイルランドで100年以上歌い継がれている伝統楽曲だそうです。親しみやすくて、しかも胸にしみこんでくるような曲です。

"Innisfree"はアイルランドのスライゴーの南東3kmにあるギル湖に浮かぶ小さな島で、詩人で劇作家、そしてアイルランド文芸復興の指導者であり、ノーベル文学賞も受賞した「イェイツ(William Butler Yeats)」が、"The Lake Isle of Innisfree"という詩で詠っています。

関連情報

ケルティック ウーマン / 公式サイト
ケルティック ウーマン / Amazon.co.jp

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2006-5-14 / 「チェルノブイリ20年目の歌声」

先月22日にNHKBSで放送された「チェルノブイリ20年目の歌声」という番組が、5月5日、再放送されました。

番組では、フォトジャーナリストの広河隆一さんが、被ばく者の子どもたちが結成した音楽団「チェルボナ・カリーナ」や被災者を訪ね、過去・現在を追いかけます。

少女たちの表情が、大量の薬が欠かせないほどの体調不良や甲状腺がんの発症不安などと向かい合いながら、歌や踊りで自分を表現することで生きる希望を見つけようとしているようにみえて、彼女たちの表情が明るければ明るいほど、見ているのがつらくなりました。

さて、番組でナビゲータをやっていた広河隆一さんですが、レバノン戦争とそれに伴う虐殺事件に関する報道など中東の写真報道で知られ、チェルノブイリでも、事故直後から取材と支援活動を続けてきている方です。

『核の大地』、『チェルノブイリと地球』(講談社)、『ニーナ先生と子どもたち』(小学館)、『パレスチナ/瓦礫の中のこどもたち』(徳間書店)、『中東共存への道』(岩波書店)、『パレスチナ新版』(岩波新書)などの著作があり、月刊写真誌「デイズ・ジャパン」発行人、「チェルノブイリ子ども基金」代表、「日本ビジュアル・ジャーナリスト協会」代表などもつとめられています。

著作権の関係で写真を紹介できないのが残念ですが、以下のサイトを参考にしてください。

関連情報

HIROPRESS / 広河隆一さんのサイト
DAYS JAPAN / 世界を視るフォトジャーナリズム月刊誌
チェルノブイリの子供たち / チェルノブイリ子供基金のページ
パレスチナの子供の里親運動 / パレスチナ人の子どもたちの自立支援組織

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2006-5-7 / 「チグエソ 地球の空の下で」

雨の休日、自転車もスケッチもあきらめ、TVをつけっぱなしで本を読んでいたら、いい曲が聞こえてきました。思わず画面を見るとNHKの「みんなのうた」で、流れていたのは「チグエソ 地球の空の下で」という曲でした。

NHKみんなのうたのサイトで、次のように紹介されています。

『冬のソナタ』主題歌の作曲者で韓国の人気シンガー・ソングライター、ユ・ヘジュンが「みんなのうた」から日本デビューします。作詞家のもりちよこが、彼のインストゥルメンタルの名曲に惚れ込み、許諾を得て作詞しました。
映像は、一昨年話題になった椎名林檎(しいなりんご)の『りんごのうた』の映像を手がけた円人(Enjin Productions)と、古川タク・吉良敬三と並ぶベテランアニメーター・一色あづるとのコラボレーション。
日韓を代表する写真家、土門拳とキム・ギチャンが遺した光溢れる写真の数々を織り交ぜながら、小さな女の子を主人公に、時代を超えて命の輝きが引き継がれていく物語を描きます。

「インストゥルメンタルの名曲」とありますが、「冬ソナ」の「初恋のメロディー」のCDに入っていた「Only」に、もりちよこさんが歌詞をつけたものだそうです。

メロディーも歌詞もいいですが、土門拳キム・ギチャンの写真もいいですね。

関連情報

韓国の「失われた風景」を撮る写真家 / 屋根神さまのある風景

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2006-5-1 / エドワード・サイード OUT OF PLACE

4月29日、先日お知らせした『エドワード・サイード OUT OF PLACE 完成記念上映会+大江健三郎講演会』に行ってきました。当日は急な雨も降ったりの天気でしたが、1000人以上入る九段会館大ホールの3階席までいっぱいで、立ち見が出るほどでした。(作家の澤地久枝さんの姿も見えました。)

私がエドワード・サイードのことを知ったのは、去年の12月にNHK BSで再放送された「レッスン・イン・ハーモニー」という番組によってでした。

この番組はダニエル・バレンボイムを中心に設立された ウェスト・イースタン・ディヴァン・ワークショップの活動を追ったドキュメンタリーで、イスラエル、パレスチナ、シリア、エジプト、レバノン、 ヨルダン、チュニジア、ドイツ各地から集まった40人の若手音楽家たちのワークショップの模様を軸に、様々なバックグラウンドを背負う若い音楽家たちが、 時にぶつかり合いつつも音楽を通して進行を深める様子を追ったものでした。

この番組を見てからサイードのことがずっと気になり続け、少しづつ勉強しているところです。

さて、監督の佐藤真さんの舞台挨拶に続いて2時間17分の映画が上映されたわけですが、映画の大半はエドワード・サイードをめぐる人々へのインタビューと、難民キャンプを中心としたパレスチナの人々の暮らし(1948年のイスラエル建国以来すでに58年に及んでいます)の描写です。

何しろ290本、延べ210時間あまりの取材フィルムを2時間17分にまとめたものですから、完成した作品をなんとなく見てしまうと、サイードが伝えたかったもの(サイード自身はこの映画の中には出てきません)も監督が伝えたかったものも、読み取ることはできません。内容をこのコラムで要約することも不可能です。

この映画を理解するには、何らかのテキスト、例えばみすず書房から出ている『エドワード・サイード OUT OF PLACE』などが必要と感じました。

映画が終わって休憩の後、サイード夫人のマリアム・サイードさんの挨拶に続いて大江健三郎さんの講演「«後期のスタイル»という思想-サイードを全体的に読む-」がありました。

大江さんの講演は、サイードとの交流のきっかけからバレンボイム来日時のドイツ大使館における大江夫人の007張りの活躍の様子など、硬軟取り混ぜた興味深いものでした。

最後に、ウェスト・イースタン・ディヴァン・プロジェクトについてサイードが語っている言葉を紹介します。

「このプロジェクトを推進する基本原則は、次のとおりだ。民族や国籍によって人々を引き離しても、彼らを対立させている問題は何ひとつ解決しない。他者を知ろうとしないことも、もちろん有害無益だ。音楽を演奏する喜びを分かち合うときのような、協調と共存を通してならば、少しは期待がもてるかもしれない。暗雲が垂れ込め、現在の状況は絶望的にみえるが、わたし個人はあくまでも楽観的である。」

「エドワード・サイード OUT OF PLACE」ロードショー

日程:2006年5月16日(火)~27日(土)※5月21日(日)は除く
場所:アテネ・フランセ文化センター
東京都千代田区神田駿河台2-11アテネ・フランセ4F
TEL:03-3291-4399
www.athenee.net/culturalcenter/

関連情報

エドワード・サイード OUT OF PLACE / Amazon.co.jp

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