『TOMORROW 明日』『美しい夏キリシマ』『父と暮らせば』の「戦争レクイエム三部作」に続く黒木和雄監督の遺作、『紙屋悦子の青春』を会社帰りに見てきました。
前回の『父と暮らせば』に続いて舞台劇を映画化したもので(前作は井上ひさし、今回の作品は松田正隆が原作)、登場人物は5人だけという映画です。
黒木監督は、太平洋戦争末期の鹿児島の田舎を舞台に、戦争が一人ひとりの生活や人生と密接に結びついていた時代を、主人公の紙屋悦子(原田知世)と彼女を取り囲む4人(彼女の兄夫婦、兄の後輩で悦子の縁談を持ち込む明石少尉とその友人の永与少尉)の登場人物を通して描きます。
日々の当たり前の生活をすることができない暗い時代を描いているのですが、登場人物の鹿児島弁の会話がおもしろく、ある意味、庶民の強さのようなものを感じました。小林薫の兄(安忠) と本上まなみ(ふさ)の夫婦の会話は、勝気なふさの感じが良く出ていたし、登場人物すべてがよく描けていました。
特に、帰りの遅い安忠を待つ不安感を、帰ってきた安忠に怒りという形でぶつけたふさの気持ちがいとおしく、良かったです(「わたしは普通にお赤飯やラッキョウを食べたい」というふさの言葉に、黒木監督の非戦のメッセージが込められているように思いました)。
全体的には前作の『父と暮らせば』のほうが会話のテンポがよく、わたしは好きですが、皆さんはどうでしょうか。
スタッフ
キャスト
8月13日の日曜日、上野の国立博物館(平成館)でやっている「若冲と江戸絵画展」を見に行ってきました。
最近、宇多田ひかるの『SAKURAドロップス』のプロモーションビデオに使われたり、テレビ東京の『誰でもピカソ』でも取り上げられたりして、すっかり有名になったせいか、5部構成の展示のうち第3部の若冲のコーナーは、人いきれで息苦しくなるくらい混んでました。
若冲というと、今回も展示されていた『鳥獣花木図屏風』や『紫陽花双鶏図』などの極彩色の世界のイメージがありますが、墨絵も多く展示されていました。
で、その若冲のコーナーの最後のほうに『伏見人形図』というのがありました。
こういう感じの絵で、シンプルでやわらかな印象で、また別の若冲を見つけたような気がしました。若冲は伏見人形のデザインもしていたそうですね。
この絵を見ていて頭に浮かんだのが、「神坂雪佳(かみさかせっか)」という明治の頃の琳派の名匠です。画家というよりも意匠図案家・美術工芸家ですが、この人の絵はすごくシンプルで、わたしの好きなアーティストの一人です。こちらのページに、プロフィールと作品例がのっています。
そしてもう一人、若冲や雪佳と共通点のある現代の日本人アーティストが、アニメ、フィギュアなどいわゆるサブカルチャーであるオタク系の題材を用いた作品で有名な「村上隆」です。この人も、ルイ・ヴィトンのバッグのデザインなんかもしてますね。
さて、この3人の共通点は何でしょう。
いくつかあるのですが、まず3人とも日本画を出発点にしていること、何らかの形で「もの」のデザインをしていること、そしてここが一番のポイントですが、3人とも海外での高い評価が逆輸入されて、日本で有名になったことです。
時代はそれぞれ異なりますが、おもしろいですね。
伊藤若冲については、皇居の三の丸尚蔵館でも「花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に>」と題する展覧会が開催されています。6年にわたる修復作業が完了した「動植綵絵」30幅のうち6幅づつが、今年の春から順次展示されています。代表作とされるだけにどれもすばらしいです。若冲の濃密な世界が堪能できます。
若冲と江戸絵画展 / オフィシャルサイト
カイカイキキ / 村上隆率いるカイカイキキのウェブサイト
花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> / 三の丸尚蔵館