山田詠美といえば文藝賞を受賞した『ベッドタイムアイズ』のイメージが強くて、これまで読む気がしなかったのですが、どうも食わず嫌いだったようです。
この本は全部で6編からなる短編集ですが、そのうちの『風味絶佳』が今年の9月に『シュガー&スパイス ~ 風味絶佳~』として映画化されたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
6編に共通するのは、人が人を思うときの「いとおしさ」であったり、そうであるが故の「はかなさ」、「不安感」であったりするわけですが、普通の価値観を持った人から見れば「ちょっと変わった」人間関係を描いています。
著者自身があとがきの冒頭で、「世に風味豊かなものは数多くあれど、その中でも、とりわけ私が心魅かれるのは、人間のかもし出すそれである。ある人のすっくりと立った時のたたずまい。その姿が微妙に歪む瞬間、なんとも言えぬ香ばしさが、私の許に流れつく。体のすべての器官を使って、それに触れて味わおうとする時、自分の内に、物書き独特の欲望が湧き上がるのを感じる。」と書いていますが、「人間のかもし出す」「風味豊かなもの」を感じることのできる小説です。
『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で1987年に直木賞をとってますから、力があるのは当たり前といえば当たり前のなのですが、こんなに力のある人だとは思いませんでした。登場人物たちがいま目の前にいるような、みごとな描写です。
風味絶佳 / 山田詠美(文芸春秋)
シュガー&スパイス ~ 風味絶佳~ / 映画のオフィシャルサイト
『たそがれ清兵衛』『隠し剣鬼の爪』に続く、山田洋次監督の藤沢周平三部作最後の作品、『武士の一分』を見てきました。
今回はキムタクこと木村拓哉主演ということで別の意味で注目された作品で、館内にはいつもはいない若い人たちの姿も見えました。
これまでの二作と比べると少し見劣りがするかな、というのが正直な感想です。
ほとんどが室内のシーンで画面に広がりが感じられないのと、主役の二人(キムタクと檀れい)の台詞回しに艶がないというか直線的な感じで、全体として奥行きの深さが足りない感じを受けました。『たそがれ』の真田広之と宮沢りえや、『鬼の爪』の松たか子とくらべるのは酷かもしれませんが。
かなり前に原作(盲目剣谺返し)を読んで、この小説を映画かドラマにしたらいいだろうなあ、と思っていて、しかも今回山田洋次監督ということで期待が大きすぎたかもしれませんね。
でも、見て損はない映画です。★★★☆☆。
スタッフ
キャスト
武士の一分 / オフィシャルサイト