なかなか「これはヨカッタ」と思える本にはめぐり合えないものですね。とりあえず5編紹介します。
からだのままに / 南木佳士(文藝春秋)
信州佐久総合病院の医師で作家の南木佳士のエッセイ集。医師としての仕事がピークを迎えていたときにパニック症候群を発症し、その後の「うつ」をようやく乗り越えつつある作者の、飾りのない文章がいいです。
海峡のアリア / 田月仙(小学館)
東京生まれ・東京育ちで在日コリアン2世のオペラ歌手、田月仙 (チョン・ウォルソン)さんが自らの半生をつづった作品。2006年「小学館ノンフィクション大賞」優秀賞受賞作です。
表現的にはシロウトの文章という印象がぬぐえませんが、朝鮮半島南部の出身でありながら、社会主義思想に共鳴して朝鮮総連の活動をしていた両親、「地上の楽園」を信じて北朝鮮に「帰国」した兄たちの悲惨な運命とそれを死ぬまで後悔していた母親のことなど、内容は重い。
いきもののすべて / フジモト マサル (文藝春秋)
小説でもノンフィクションでもない。4コマ漫画です。登場するのは動物たちなのですが、「こんなことあるよね」というわれわれの日常生活が切り取られていて、思わずクスリとさせられます。
わたしたちに許された特別な時間の終わり / 岡田利規 (新潮社)
『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞した岡田利規の小説デビュー作品。これが小説?。ただただ、どうでもいい細かい描写が続く。次回作に期待。
あなたがパラダイス / 平 安寿子(朝日新聞社出版局)
3人の女性が登場するオムニバス小説です。共通するのは「更年期」という女性特有の問題と(最近は男の更年期ということも言われるようになりましたが)、さらに重くのしかかる両親の介護や定年恐怖症のダンナの問題など。そして、そういう人生の重さをしょっていくための支えとしての「沢田研二」です。
これから中高年にさしかかる女性にも男性にも、読んで欲しい小説です。
山田詠美の4年ぶりの書き下ろし長編『無銭優雅』。塾の講師「栄」と花屋の店員「慈雨」(ともに42歳)の中年カップルの、力の抜けた恋愛小説?かとおもったら、後半の30ページくらいで一気にこの小説のテーマが表現されています。
小説のはじめの方にこんな文章が出てきます。
「でも、いつか死んじゃうかもって思うと、うっとりする。おまえのこと、すごく大事にしたくなる」
「人を勝手に殺さないでよね」
「うん。ひとりでなんか死なせないよ。どうせ死ぬなら、一緒に死のう」
「ええ!?」
「……と、いうような気持で、一緒に楽しもう」
この文章、小説の終盤の栄の言葉、
「うん。おれ、悲しい時も楽しい時も、慈雨ちゃんのこと、追っかける決まりだから」
までつながってるんですね。
出だしの、二人のいい加減なというか力の抜けた感じが大道珠貴の「蝶か蛾か」のようでもありますが、後半のストーリー展開はやはりウマイ! ちなみに川上弘美は『面白くて2回読んだ』そうです。
無銭優雅 / 山田 詠美 (幻冬舎 )
読みたい本がネットで予約できて、しかも市内の別の図書館からでも最寄の図書館まで持ってきてくれるので、最近、家の中にミニ図書館ができたような感じ。これも市町村合併の効果?
という訳で、この1ヶ月ほどの間に読んだ本をまとめてご紹介します。
あくまで私の評価ですが、こんな感じです。
これを読まなきゃウソでしょ
オススメ!!
マアマアいいかな
時間があればどうぞ
時間の無駄
ハヅキさんのこと / 川上弘美(講談社)
23の掌編からなる短編集。それぞれあまりにも短くて「エッ」という感じですが、これもまさにカワカミワールド。
真鶴 / 川上弘美(文藝春秋)
去年発表されて評判になりました。言葉に対する感性の鋭さが、観念的な内容を形にしています。スゴイ。
月下の恋人 / 浅田次郎(光文社)
名手浅田次郎も息切れか。11の短編、どれもイマイチ。
一所懸命 / 岩井三四二(講談社)
戦国の世を、生きるために戦った下層の武士たちから書いた作品。
空色ヒッチハイカー / 橋本 紡(新潮社)
夏の青空を感じさせる青春小説。どうってこと無かったなあ。
死顔 / 吉村 昭(新潮社)
吉村 昭 最後の短編集。常に自分の「死」を意識していた作家の、自分自身の野辺送りの煙を自身が見ているような淡々とした筆致。
植物診断室 / 星野智幸(文藝春秋)
ある女性に「夫でもなく、父親でもない役割」を求められた男の物語。読んでも読まなくても、ドッチデモいい感じ。
ドクトルマンボウ回想記 / 北 杜夫(日本経済新聞社)
いわずと知れたマンボウ先生の回想記。日経新聞の「私の履歴書」の連載に加筆したもの。
蝶か蛾か / 大道珠貴(文藝春秋)
『しょっぱいドライブ』第128回芥川賞を受賞した大道珠貴の作品。主人公がブットンデて、マアマアおもしろい。
サルビアの記憶 / 海老沢泰久(文藝春秋)
7編からなる短編集。最初の1篇を読んであとは読む気にならず。
また会う日まで / 柴崎友香(河出書房新社)
これは恋愛小説なのかなあ。写真家志望の若い女の子の1週間を軽やかな会話でつないだ小説。
シックスポケッツ・チルドレン / 中場 利一(集英社)
『岸和田少年愚連隊 』の中場 利一の最新作。ディープな大阪のディープな人々。とにかくハチャメチャでオモシロイ。ところで「不良」と「非行」の違いってわかります?
数年前に放送されて、再放送されたら絶対見ようと思っていた番組が今週ありました。NHKBSのハイビジョンスペシャル『"せっかはん"を知っといやすか?』です。前から「見たいみたい」と言っていたのを覚えていた妻が、平日の朝8時からの放送を録画してくれていました。感謝!
『"せっかはん"を知っといやすか?』 - 京都・デザインの文明開化 -
2001年、エルメスのブランドPR誌『ル・モンド・エルメス』の表紙と巻頭に紹介され、以来日本でも評判になりました。
特徴は、何といってもそのやわらかい色調とシンプルな線、そして活動の幅の広さでしょう。雪佳の代表的な図案集『百々世草(ももよぐさ)』からいくつか特徴的な作品をあげると(絵をクリックすると百々世草のプレビューがスタート)、
※このうち『雪中竹』は、梨木香歩『家守綺譚』の文庫版表紙になっています。
ここにご紹介したものはごく一部ですが、どれも雪佳の特徴がよく出ていると思います。百々世草は、京都の版元「芸艸堂(うんそうどう)」が出している本もありますし、同社のサイトで木版画も購入できます。
番組で紹介された、京都 東山 青蓮院の襖絵を見た羽田美智子が「この瞬間を誰かと分かちあいたい」と言っていましたが、ぜひ現物を見てみたいものです。
今年の1月から、フジテレビで月曜夜9時から放送されている『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』ですが、このテーマはタマラナイですね。原作は、イラストレーターのリリー・フランキーさんが書いた2005年6月発売の本。去年の10月に200万部を越したベストセラーで、2006年本屋大賞を受賞した作品です。
この作品、昨年11月にもフジテレビで単発ドラマとして映像化されています。その時は、急逝した演出家久世光彦さんの「万が一のことがあっても実現を」という遺志を継ぎ、映画「県庁の星」の西谷弘監督が演出を担当。「ボク」ことリリーさんを大泉洋、「オカン」を田中裕子がやっていました。
この時もなかなか良かったのですが、今放送されているのもイイですね。速水もこみちの「ボク」はパワフルでカッコよすぎてどうかなと思っていたのですが、なにしろドラマの中に一貫しているテーマに毎回胸が熱くなります。
一言でいえば親子の情愛という、いってみれば陳腐なテーマなのですが、自分が子供だったときの、今は亡くなってしまった母とのことなどが思い出されて、たまらなくなります。ちなみに久世さんは「泣いてしまった…。これは、ひらかなで書かれた聖書である」と言ったそうです。
バックで流れるコブクロの『蕾』もいいし、このテーマは...ツライ。
4月には映画版が公開されます。こちらはオダギリジョー主演。