久しぶりに最近読んだ本の中から。今回はとりあえず14編。
しずく / 西加奈子(光文社)
特別なことは何も起こらないけど、読み終わった後じんわりとくる短編集。最後の『シャワーキャップ』が特にヨカッタ。
となりの姉妹 / 長野まゆみ(講談社)
普通の人たちのちょっと不思議な物語。こんな小説もあるんだなという感じ。
蝉時雨のやむ頃 / 吉田秋生(小学館)
鎌倉を舞台に、人との別れと出会い、家族の喪失と再生が描かれる。マンガだけどなかなかイイです。
迷産時代 / 宇佐美游(双葉社)
「出産」に迷い、苦しみながら歩んでいく女性たちの物語。
小さな神さま / 太田治子(朝日新聞社出版局)
月刊誌に連載されたエッセイのような短い小説をまとめたもの。
万寿子さんの庭 / 黒野伸一(小学館)
斜視であることにコンプレックスを持つ若い女性とちょっと変わったおばあさんとの出会いと別れ。そして新たな旅立ち。映画にしてもおもしろそう。
ひとり日和 / 青山七恵(河出書房新社)
今年の芥川賞受賞作。『万寿子さんの庭』と同じように若い女性と老婆との物語です。芥川賞の選考会で絶賛されたそうですが、文章表現に今一歩のところがあるし、内容的にも「それほどのものかなあ」という感じです。今の若い人たちの感じ方や考え方をうまく切り取っているとは思いますが。
スコーレNo.4 / 宮下奈都(光文社)
妹にコンプレックスを持ち続けていた主人公・麻子の成長の物語。特に後半、大学を経て社会人になって、周囲の人たちとの出会いの中で自分自身を見つけ自信を取り戻すまでの過程が実にあざやかにテンポ良く描かれている。読んでいてシアワセな気分になれる、そんな作品でした。
ハムレット役者 / 芥川比呂志(講談社)
役者であり、名エッセイストだった芥川比呂志のエッセイの中から、作家の丸谷才一氏が選んだエッセイ集。父親である芥川龍之介と同時代の作家たちとの交流など、興味深い。最後の演技論などは役者を志す人たちは必読でしょう。
こちらの事情 / 森浩美(双葉社)
さまざまな事情、さまざまな人生。若いうちは問題にならなかったことや気づかなかったことってありますよね。
週末のフール / 伊坂幸太郎(集英社)
「あと3年で世界が終わる」ことを前提とした連作集。悪くはないけど、前提が突飛過ぎてどうも。
エンキョリレンアイ / 小手鞠るい(世界文化社)
東京とニューヨークの遠距離恋愛を描いた物語。結末が甘いといえば甘いかもしれないけど、救いのあるほうがイイよね。
小学五年生 / 重松清(文藝春秋)
重松清の作品にはほとんどハズレがない。この作品も、子供の気持ちをうまく掬い上げている。
通天閣 / 西加奈子(筑摩書房)
大阪の町(しかも通天閣周辺のディープな大阪)を舞台に、どうしようもない人々を描く。30才の女性が、町工場での仕事やぼったくりバーやホモのおじさんのことをなぜ描けるのか、不思議です。しかも『しずく』とは全く違うタイプの作品。西加奈子、只者でないかも。
作家の藤沢周平さんが亡くなって丸10年が過ぎましたが、藤沢作品の人気は衰えるどころかますます上がり、TVでも氏の作品をもとにしたドラマが再放送されています。
そんな藤沢ブームの中、昨年は娘の遠藤展子さんの書いた『藤沢周平 父の周辺』が出版され話題になりましたが、今年の5月には、氏と親交のあった高山正雄さんの娘、高山秀子さんの書いた『追憶の藤沢周平』という本が出版されました。
この本では、飾ることなく誠実で控えめだった藤沢周平さんの人柄が偲ばれる様々なエピソードが書かれていますが、その中から一部紹介します。
姉が留治さんを玄関で見送って、ベッドのそばに戻ると、かたむちょ父ちゃんが泣きべそをかいていた。その時、父の胸を去来した思いは私たちにはわからない。父と留治さんには、おそらくふたりだけの世界があったのだろう。姉の印象では、父の表情は悲しそうな顔ではなく、半分笑顔の泣きべそだったという。
(中略)
いつかは歴史小説を書きたいという留治さんの長年の願いを知っていた父は彼がそんな報告に立ち寄ってくれたことが、自分のことのように嬉しかったのだろう。幼い時から「留治、留治」と呼んで親しんできた少年が成長し、こうして小説家として成功したあとも、なんら変わることなく訪ねつづけてくれることが何よりも嬉しかった。そして父は留治さんに尊敬の念をいだくようになっていた。そうした自分の変化がまた嬉しくて、嬉し泣きしたようでもあった。
(『最後のとき』から)
いまNHKBSでは、「わたしの藤沢周平」というシリーズが放送されています。番組では、毎回ひとつの作品を取り上げ、その作品を愛してやまない各界で活躍する一人の人物のトークが楽しめます。毎週火曜朝の放送ですが、日曜日の夕方、BSHiで再放送があります。
これまでに江夏豊の「蝉しぐれ」、城山三郎の「三屋清左衛門残日録」、佐藤江梨子の「雪明かり」、黒土三男の「用心棒日月抄」など、こちらのほうも楽しめます。
藤沢周平の作品は、何度読み返してもその度に何かを感じることができます。日々の生活を続けることの厳しさ、せつなさ、よろこび、そしておかしみ。そういったことを感じさせてくれるところが共感を呼ぶんでしょうね。
追憶の藤沢周平-留治さんとかたむちょ父ちゃん / 高山秀子(集英社)
藤沢周平 父の周辺 / 遠藤展子(文藝春秋)
わたしの藤沢周平 / NHKの番組ホームページ
今日の朝日新聞日曜版 "be on Saturday" で、アウトドア用品メーカー「パタゴニア」の創業者イヴォン・シュイナード氏が紹介されていました。
記事の中では、カリフォルニア州ヨセミテ渓谷の大岸壁群にルートを開いた登山家の一人だった氏が、クライミングギア製造会社を経てパタゴニアを創り、なぜ今の企業理念に至ったのか、そしてそれをどのように具体化しているか、書かれています。
最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として、環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。
-パタゴニアのミッション・ステートメント
企業の価値を利益の拡大にしか求めず、利益の拡大がビジネスの正義であるかのような現代社会で、「ビジネスを手段として、環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」ことを企業理念として活動を続けるパタゴニア。創業者のイヴォン・シュイナードが、その著書『社員をサーフィンに行かせよう』の日本語版序文の中で次のように言っています。
私たちの会社で「社員をサーフィンに行かせよう」と言い出したのはずいぶん前からのことだ。私たちの会社では、本当に社員はいつでもサーフィンに行っていいのだ。もちろん、勤務時間中でもだ。平日の午前十一時だろうが、午後二時だろうがかまわない。いい波が来ているのに、サーフィンに出かけないほうがおかしい。
(中略)
結局、「社員をサーフィンに行かせよう」という精神は、私たちの会社の「フレックスタイム」と「ジョブシェアリング」の考え方を具現化したものにほかならない。
この精神は、会社が従業員を信頼していていないと成立しない。社員が会社の外にいる以上、どこかでサボっているかも知れないからだ。
しかし、経営者がいちいちそれを心配していては成り立たない。私たち経営陣は、仕事がいつも期日通りに終わり、きちんと成果をあげられることを信じているし、社員たちもその期待に応えてくれる。お互いに信頼関係があるからこそ、この言葉が機能するのだ。
どうです。こんな会社で働きたいと思いませんか。
パタゴニア / パタゴニア社のサイト。環境への取り組みについても載っています。
社員をサーフィンに行かせよう / イヴォン・シュイナード(東洋経済新報社)
JR東海のツアーで、京都相国寺承天閣美術館で開催中の『若冲展』を見てきました。
東京駅発が6時28分ということで「早過ぎ」と思ったのですが、それでも相国寺に着いたのが9時半過ぎ。すでに入場を待つ行列ができていました。50分待って入場。
さて、今回の展覧会の目玉である「釈迦三尊像」と「動植綵絵」30幅。部分的にはこれまでも見たことはあったのですが、まとめて見たのはもちろん初めて。やはり京都まで行った価値はありました。
ですが、わたしが一番引き込まれたのは、実は「動植綵絵」ではなく「毘沙門天立像」でした。この仏像は、相国寺近隣の富商店主の夢に3夜連続で現れたで発見され、修復後秘仏とされたものだそうですが、姿といい、表情といい、すばらしい迫力でした。
午後からは、若冲ゆかりの旅ということで鹿苑寺(通称金閣寺)、黄檗山萬福寺、石峰寺を回りました。
鹿苑寺は相国寺の塔頭で、大書院に描かれた若冲の水墨画の代表作「鹿苑寺大書院障壁画」全50面が、今回の展覧会で一括展示されていました。
若冲と萬福寺の関わりは、親しくしていた大典顕常や売茶翁が元黄檗僧であったこと、23世住持蒲庵浄英の肖像や「黄檗山萬福寺境内図」を描いたことに認められるそうです。中国風の寺でなかなかオモシロカッタです。
最後に行った石峰寺は若冲が晩年を過ごした京都深草の黄檗宗の寺で、若冲が下絵を描いたという500羅漢があります。住宅地の路地の奥の階段を登った所にある小さな寺で、若冲の墓もあります。
今回のツアー、朝5時に家を出て帰ってきたのが10時前。ちょっと疲れましたが、「釈迦三尊像」と「動植綵絵」30幅がまとめて見られるという機会はめったにないでしょうから、行って良かったです。
それにしても、私たちのツアーが相国寺を出るときには入場3時間待ち。若冲ブームもすごいことになってきましたね。
若冲展 / 若冲展公式サイト
鹿苑寺 / 鹿苑寺(金閣寺)のサイト
黄檗山萬福寺 / 万福寺のサイト
石峰寺 / 「そうだ京都行こう」の石峰寺案内ページ